警察庁がTorの遮断を要請するという報道について


まず、事実として

  • 警察庁がISPに対してTorのブロックを要請する、というのは英文記事への翻訳ミスによる誤報です
  • 翻訳ミスがあった英文記事については4/23夜に修正されています
  • 4/18に警察庁の有識者会議*1がまとめたとされる報告書は4/23現在公開されていません

4/18に毎日新聞(毎日.jp)から「警察庁有識者会議:ネット管理者が通信遮断を 匿名悪用で」という報道がありました。(記事タイトルについては4/23夜に「ネット管理者が」から「サイト管理者が」に修正されています)私の所属するインターネット関連事業者団体にも問い合わせがあったようで一時話題になったのですが、その時はむしろその実効性についての意見交換が主でした。日本語の記事はちゃんと読めばあくまで対象は「サイト管理者」ということだったので、それ以上の詳細については警察庁からの連絡(もしくは最終報告書の公開)がないとわからないよね...というのが当初の印象でした。

それが4/23の nikkeibp に掲載された WIRED.jp の記事では、タイトルが「日本の警察庁、匿名化ツール「Tor」のブロックをISP各社に要請(WIRED.jp)」ということで、いつの間にか警察庁の要請先がISP各社になっています。WIRED.jp を辿ってみると、WIRED.co.uk(Japanse police ask ISPs to start blocking Tor)からの翻訳ということで、これはてっきり WIRED.co.uk 側が間違ったのかと思いきや、元々の参照元は mainichi.jp の英文記事ということがここで判明。検索してみると、この英文記事を引用した報道が多数。さらにそれらの報道を元に書かれたブログやTweetがあり、もちろんその多くは否定的な内容でした。YouTube に Anonymous を名乗る声明がアップされたり、日本の警察に撤回を求める署名活動まで始まっています。


SAVE TOR IN JAPAN - Anonymous Responds to ...

なにはともあれ、ということでまずは毎日新聞に電話したのですが、担当部署の回線が塞がっているということで 4/23の午後16時45分頃にウェブのフォーム経由で、英文記事の誤訳についての修正要望を送信。4時間後の同日の午後20時40分に毎日新聞の英文毎日室長より「タイトル及び最初の一文を修正し、該当記事を引用している海外メディアに対しても記事の修正を要請する」旨、メールを頂きました。その返信として、「迅速な対応に感謝しつつも、現状では記事が修正されたことが一目ではわかりにくいので、なんとか(ネット上で引用した際に)もう少しわかりやすい形にしてもらいたい」旨、再度メールで要望を出させて頂きました。*2

今回の一連の流れを通じて、あらためて間違った情報(そしてそれを元にした論評)が伝わる速さに驚きました。18日の報道発表からものの数日で、言葉の壁を何度も飛び越えています。今後、記事やその引用先の情報が修正されても、恐らく世界中の多くの方々には当初の印象が残ったままになってしまうであろうことが、なんとも残念です。海外報道の日本語訳がちょっと変だなと感じたら、可能な限り原文をあたる癖はあるのですが、日本発の報道の英訳にまでは気が回ってませんでした。遅ればせながら、今後はできる範囲で気になる報道の英訳も確認したいと思った次第です。みなさまもぜひ。

ネット犯罪の抑止に Tor の規制が有効か否か、とか、そもそも Tor がどのような仕組みか、等は既に詳しい方々が解説*3されていると思うので少し落ち着いたら私もそちらを参照したいと思います。

*1:総合セキュリティ対策会議 (警察庁)

*2:4/24夜に、タイトルに"Correction:"の文字と、記事末尾に変更箇所の説明が追記されました

*3:警察庁がISPに Torのブロックを要請!?(セキュリティは楽しいかね Part2)